
ドイツ語の学習を進めていくと、必ずぶつかるのが**「前置詞(ぜんちし)」**の壁です。
英語の in や with、for にあたる言葉ですが、ドイツ語の前置詞には英語にはない**「格支配(かくしはい)」という強烈なルールがあります。 「格支配」とは、「この前置詞の後ろに来る名詞は、絶対に〇格にしなさい!」と前置詞が強制的に決定するルール**のことです。
この記事では、初学者がつまずきやすい「3格支配」「4格支配」、そして状況によって変化する「3・4格支配」の前置詞について、例文とカタカナ発音付きで徹底的に解説します。 これを読めば、もう前置詞で迷うことはなくなります!
序章:そもそも「格支配」とは?
例えば、英語で「私と一緒に」と言うとき、with I とは言わず with me と言いますよね。前置詞 with の後ろは目的格(me)になるというルールがあるからです。
ドイツ語も全く同じ発想です。ただし、ドイツ語には格が4つ(1格〜4格)あるため、前置詞ごとに**「俺の後ろは絶対に3格だ!」「私の後ろは絶対に4格よ!」**という縄張りが決まっているのです。
大きく分けて、以下のグループがあります。
- 常に3格をとる前置詞(3格支配)
- 常に4格をとる前置詞(4格支配)
- (ごく少数)2格をとる前置詞(2格支配)
- 状況によって3格と4格を使い分ける前置詞(3・4格支配)
それでは、順番に攻略していきましょう!
第1章:常に3格!「3格支配の前置詞」
まずは「常に3格(〜に)」を後ろに伴う前置詞グループです。よく使われる代表的なものは以下の7つです。 【aus, bei, mit, nach, seit, von, zu】
1. aus(アウス):〜の中から、〜出身で
空間的な「中から外へ」の移動や、出身地を表します。
【テキスト例文】 Ich komme aus dem Mond. (イッヒ コメ アウス デム モーント) 私は 月から 来ました。 解説:Mond(月)は男性名詞。ausの後ろなので3格の
demになります。【テキスト小例】
- aus Japan(アウス ヤーパン)日本から
【+追加例文】
- Er trinkt Kaffee aus der Tasse. (エア トリンクト カフェー アウス デア タッセ) 彼はカップからコーヒーを飲みます。(Tasse=女性名詞・3格で
der)
2. bei(バイ):〜のもとで、〜の際に
人の家や職場に「いる」状態や、特定の状況(〜の時)を表します。
【テキスト例文】 Bei Regen bleiben wir zu Haus. (バイ レーゲン ブライベン ヴィーア ツー ハオス) 雨の際には(私たちは)家にいます。 解説:「雨」という状況を表すbeiです。zu Haus(家に)は熟語として覚えましょう。
【テキスト小例】
- bei der Mutter(バイ デア ムッター)母のもとで
- bei Regen(バイ レーゲン)雨の際には
【+追加例文】
- Ich arbeite bei einer IT-Firma. (イッヒ アルバイテ バイ アイナー イーテー・フィルマ) 私はIT企業で働いています。(Firma=女性名詞・3格で
einer)
3. mit(ミット):〜とともに(同伴)、〜で(手段)
英語の with や by に相当する超重要単語です。「誰かと一緒に」や「乗り物・道具を使って」を表します。
【テキスト例文】 Ich fahre mit dem Taxi nach Tokyo. (イッヒ ファーレ ミット デム タクシー ナッハ トーキョウ) 私はタクシーで東京へ行きます。 解説:Taxiは中性名詞。mitの支配により3格の
demになります。【テキスト小例】
- mit mir(ミット ミア)私といっしょに
- mit dem Taxi(ミット デム タクシー)タクシーで
【+追加例文】
- Ich schreibe mit einem Stift. (イッヒ シュライベ ミット アイネム シュティフト) 私はペンで書きます。(Stift=男性名詞・3格で
einem)
4. nach(ナッハ):〜へ(都市・国名)、〜のあとで
地名に向かって行く時や、時間的な「〜の後で」を表します。
【テキスト小例】
- nach Japan(ナッハ ヤーパン)日本へ
- nach der Arbeit(ナッハ デア アルバイト)仕事のあとに(Arbeit=女性名詞・3格で
der)
5. seit(ザイト):(時間的に)〜からずっと
過去のある時点から「現在も続いている」ことを表します。英語の since です。
【テキスト例文】 Seit April lerne ich Deutsch. (ザイト アプリール レルネ イッヒ ドイチュ) 4月から(ずっと)ドイツ語を勉強しています。
【テキスト小例】
- seit April(ザイト アプリール)4月から
6. von(フォン):〜から(起点)、〜の(所有)
場所の出発点や、英語の of のように所有を表します。
【テキスト小例】
- von Bremen(フォン ブレーメン)ブレーメンから
- das Auto von Hans(ダス アウト フォン ハンス)ハンスの車
7. zu(ツー):〜へ(人・建物に向かって)
英語の to に近く、目的地(特定の場所や人)に向かう移動を表します。
【テキスト小例】
- zu mir(ツー ミア)私のところへ
💡ワンポイント:前置詞と定冠詞の「融合形(合体)」
ドイツ語では、前置詞と定冠詞が頻繁に合体して1語になります。会話ではこの合体形が好まれます。
- zu + dem = zum(ツム)
- zu + der = zur(ツァ)
- bei + dem = beim(バイム)
- von + dem = vom(フォム)
第2章:常に4格!「4格支配の前置詞」
次は「常に4格(〜を)」を後ろに伴う前置詞グループです。 【bis, durch, für, gegen, ohne, um】 の6つを覚えましょう。
1. bis(ビス):〜まで
時間や空間の到達点を表します。冠詞を伴わず単独で使われることが多いです。
【テキスト例文】 Ich arbeite bis Morgen. (イッヒ アルバイテ ビス モルゲン) 私は朝まで働きます。
2. durch(ドゥルッヒ):〜を通って、通して(through)
空間を「通り抜ける」イメージです。
【テキスト例文】 Ich gehe durch den Park. (イッヒ ゲーエ ドゥルッヒ デン パルク) 私は公園を抜けていきます。 解説:Parkは男性名詞。durchの後ろなので4格の
denになります。
3. für(フュア):〜のために(for)
英語の for とほぼ同じ使い方です。
【テキスト例文】 Ich arbeite für die Familie. (イッヒ アルバイテ フュア ディ ファミーリエ) 私は家族のために働いています。 解説:Familieは女性名詞。4格は1格と同じ
dieです。【テキスト小例】
- für Elise(フュア エリーゼ)エリーゼのために(有名なピアノ曲の題名ですね!)
4. gegen(ゲーゲン):〜に対して、逆らって(against)
向かっていって「衝突する」ような対立のイメージを持ちます。
【テキスト小例】
- gegen Fieber(ゲーゲン フィーバー)熱に対して(熱を下げるための薬など)
【+追加例文】
- Das Auto fährt gegen den Baum. (ダス アウト ファールト ゲーゲン デン バオム) その車は**木に(向かって)**衝突する。(Baum=男性名詞・4格で
den)
5. ohne(オーネ):〜なしに(without)
英語の without です。これも冠詞をつけずに名詞をそのまま置くことが多いです。
【テキスト例文】 Ich trinke Kaffee immer ohne Milch. (イッヒ トリンケ カフェー インマ オーネ ミルヒ) 私はいつもコーヒーをミルク抜きで飲みます。
6. um(ウム):〜のまわりに(around)、(時間は)〜時に
何かの周囲をぐるっと囲むイメージや、具体的な時刻を表します。
【テキスト小例】
- um den Park(ウム デン パルク)公園のまわりに
【+追加例文】
- Das Konzert beginnt um 19 Uhr. (ダス コンツェルト ベギント ウム ノインツェーン ウーア) コンサートは19時に始まります。
第3章:ちょっとだけ紹介!「2格支配の前置詞」
テキストの端に少しだけ出てきた「2格(〜の)」をとる前置詞です。日常会話よりも、ニュースや硬い文章でよく見かけます。
【テキスト小例】
- wegen des Regens(ヴェーゲン デス レーゲンス)雨のせいで (because of)
- trotz des Regens(トロッツ デス レーゲンス)雨にもかかわらず (in spite of)
- während des Sommers(ヴェーレント デス ゾマース)夏の間に (during) 解説:どれも男性名詞(Regen, Sommer)の2格なので、冠詞が
desになり、名詞の語尾に-sがついています。
第4章:最大の難関!「3・4格支配の前置詞」
ここからが本番です! 前置詞の中には、**「文脈によって3格をとったり、4格をとったりするワガママな前置詞」**が存在します。これらはすべて「空間(位置)」を表す前置詞です。
- an(アン):〜のきわに(接触)
- auf(アウフ):〜の上に(接触)
- hinter(ヒンタァ):〜の後ろに
- in(イン):〜の中に
- neben(ネーベン):〜の横に
- über(ユーバァ):〜の上方に(離れて)
- unter(ウンター):〜の下に
- vor(フォア):〜の前に
- zwischen(ツヴィッシェン):〜の間に
運命の分かれ道:どうやって3格と4格を見分けるの?
ルールはたった一つです。動詞の意味が「状態」なのか「移動」なのかで決まります。
- 【3格になる時】= 状態・場所を示す(どこに・Wo?)
- 「〜にいる」「〜にある」など、そこにとどまっている静止状態。
- 【4格になる時】= 移動・方向を示す(どこへ・Wohin?)
- 「〜へ行く」「〜へ置く」など、そこに向かって動いている移動状態。
テキストにある犬のイラストと最高の例文を見てみましょう。
【テキスト例文:移動(4格)】 Mein Hund geht unter den Tisch. (マイン フント ゲート ウンター デン ティッシュ) 私の犬は机の下に入ります(行く)。 解説:「机の外から、机の下へ移動する」という方向を示しているので、Tisch(男性名詞)は4格の
denになります。【テキスト例文:静止(3格)】 …und liegt unter dem Tisch. (ウント リークト ウンター デム ティッシュ) …そして机の下で横たわっています。 解説:すでに机の下に入り込んで、そこで「じっとしている」場所・状態を示しているので、3格の
demになります。
このように、全く同じ「unter(〜の下)」でも、動詞(行く=geht / 横たわる=liegt)によって後ろの格が変わるのです!
さらに練習してみよう!
もう一つのテキストの例文で確認しましょう。
【テキスト例文:ベッドへ行く(移動)】 Er geht jetzt ins Bett. (エア ゲート イェット インス ベット) 彼は今ベッドに入る。 解説:「in das Bett」の融合形が「ins」です。ベッドの外から中へ「移動」するので4格です。
【テキスト例文:ベッドにいる(静止)】 Er liegt schon im Bett. (エア リークト ショーン イム ベット) 彼はすでにベッドに入っている(横たわっている)。 解説:「in dem Bett」の融合形が「im」です。すでにベッドの中で休んでいる「状態」なので3格です。
【テキスト例文:壁に掛ける(移動)】 Sie hängt ein Foto an die Wand. (ズィー ヘンクト アイン フォト アン ディ ヴァント) 彼女は1枚の写真を壁に掛ける。 解説:手元にある写真を、壁に「向かって」移動させるので、Wand(女性名詞)は4格の
dieになります。
【一覧表】テキストに登場した「場所(3格)」の例
テキストの下部にあった、全て「3格(静止・場所)」を使った例です。
- an der Wand(アン デア ヴァント):壁ぎわに(女性3格)
- hinter dem Tisch(ヒンタァ デム ティッシュ):机の後ろに(男性3格)
- neben dem Tisch(ネーベン デム ティッシュ):机の横に(男性3格)
- unter dem Tisch(ウンター デム ティッシュ):机の下に(男性3格)
- zwischen dem Tisch und der Wand(ツヴィッシェン デム ティッシュ ウント デア ヴァント):机と壁の間に
- auf dem Tisch(アウフ デム ティッシュ):机の上に(男性3格)
- in der Stadt(イン デア シュタット):町の中に(女性3格)
- über dem Tisch(ユーバァ デム ティッシュ):机の上のほうに(男性3格)
- vor dem Tisch(フォア デム ティッシュ):机の前に(男性3格)
まとめ:前置詞攻略のコツ
格支配の前置詞をマスターするための3つのステップです。
- まずは3格支配(aus, bei, mit, nach, seit, von, zu)と、4格支配(bis, durch, für, gegen, ohne, um)を呪文のように暗記する!
- 3・4格支配の前置詞は、「今、動いているか?(4格)」「じっとしているか?(3格)」をイメージする!
- 「mit dem Taxi(タクシーで)」「im Bett(ベッドで)」のように、冠詞とセットになった塊で口に出して覚える!
前置詞と格変化が結びつくと、ドイツ語の表現が立体的になり、パズルが解けるような楽しさを味わえるはずです。 焦らず、例文を何度も声に出して練習してみてくださいね!
