
超音波探傷試験(UT)、特にレベル2の資格試験勉強をしていると、多くの人がぶつかる「見えない壁」があります。
私自身も初めてNDIの試験を受けた時、テキストを開いて絶望した覚えがあります。現場では探触子を動かすのが得意でも、机上の計算になった途端に脳がフリーズしてしまうんですよね。
「なんで現場で使わないサイン・コサインが出てくるの?」
「水中で横波が消えるってどういうこと?」
そんな疑問を抱えたまま暗記で乗り切ろうとすると、応用問題で必ず躓きます。今回は、かつての私と同じように悩んでいる方に向けて、物理や数学が苦手でも直感的に理解できるよう、超音波の原理を噛み砕いて解説します。
はじめに
この記事では、教科書の難解な記述を「現場のイメージ」に翻訳し、試験で点数を稼ぐための重要ポイントに絞ってまとめました。
この記事はこんな人向けです
- UTレベル2(超音波探傷試験)の受験を控えている人
- 計算問題(スネルの法則やきずの位置)を捨てようか迷っている人
- 「端部エコー」や「モード変換」の理屈をスッキリ理解したい人
高校数学の復習:サイン・コサイン・タンジェント
斜角探傷において、三角関数(三角比)は避けて通れない道具です。「数学」と思うと身構えてしまいますが、要は「三角形の辺の比率を表すただのルール」です。
直角三角形の比率をイメージする
直角三角形の形(角度 θ:シータ)が決まれば、3つの辺(斜辺、底辺、高さ)の比率は常に一定になります。これを記号にしたのがサイン・コサインです。

- sin θ(サイン / 正弦) = 高さ ÷ 斜辺
斜めに進んだ距離のうち、「深さ(縦)方向」にどれくらい進んだかの割合。 - cos θ(コサイン / 余弦) = 底辺 ÷ 斜辺
斜めに進んだ距離のうち、「水平(横)方向」にどれくらい進んだかの割合。 - tan θ(タンジェント / 正接) = 高さ ÷ 底辺
底辺に対する高さの比率。つまり「勾配(坂の急さ)」のこと。
試験での使い所はここ!
これを覚えていると、以下の計算ができるようになります。
- 屈折角の計算:後述するスネルの法則で sin(サイン)を使います。
- きずの位置計算:ビーム路程(探触子からきずまでの距離)に cos を掛ければ「深さ」、sin を掛ければ「水平距離」が出ます。
超音波の挙動:反射・屈折・モード変換
超音波がアクリルのくさび(探触子)から鋼の試験体へ進むとき、境界面でドラマチックな変化が起きます。これを理解するのが合格への近道です。
基本用語の定義
まずは言葉の定義を整理しましょう。図で見ると一目瞭然です。

- 入射角(α:アルファ):境界面の「垂線」に対して、入っていく波がなす角度。
- 反射角(α’):境界面で跳ね返る波がなす角度(入射角と同じになります)。
- 屈折角(β:ベータ):境界面を越えて、次の物質の中へ折れ曲がって進む波がなす角度。
なぜ「縦波音速 > 横波音速」なのか?
物質中を進む音の速さ(音速 C)は、波のモード(種類)によって異なります。
| 波の種類 | 特徴 | 鋼中の音速(目安) |
|---|---|---|
| 縦波(L波) | 進行方向に振動(疎密波)。速い。 | 約 5900 m/s |
| 横波(S波) | 進行方向に垂直に振動(ねじれ波)。遅い。 | 約 3200 m/s |
直感的に説明すると、物質は「ねじれ(横波)」よりも「圧縮(縦波)」に対して強く反発して素早く反応するため、縦波の方が約2倍速く伝わります。
重要:水中では横波が伝わらない理由
ここが試験でよく問われるポイントです。
「アクリルと違って、水中では横波が伝わらない」
横波は、隣り合う分子同士が手を繋いで引っ張り合う力(せん断力)によって伝わります。固体は硬いのでこれが可能ですが、水や油などの液体は形を保てない(せん断応力に抵抗できない)ため、横波が発生してもすぐに消滅してしまうのです。
そのため、水浸法(水中で探傷する方法)では、水中を伝わるのは縦波だけになります。
スネルの法則を詳しく解説
斜角探傷の心臓部とも言えるのが、波の折れ曲がり方を計算する「スネルの法則」です。

数式は難しく見えますが、形だけ覚えてしまいましょう。
sin α sin β
──── = ────
C1 C2
- α(アルファ):入射角
- C1:第1媒質の音速(例:アクリル内の縦波)
- β(ベータ):屈折角
- C2:第2媒質の音速(例:鋼内の横波)
この式が意味すること
数式を見ると頭が痛くなるかもしれませんが、言いたいことはシンプルです。
「音速が速い方の物質に進むとき、角度は大きくなる(外側に広がる)」
例えば、アクリル(遅い)から鋼(速い)へ進む場合、屈折角 β は入射角 α よりも必ず大きくなります。

臨界角(りんかいかく)とは?
入射角をどんどん広げていくと、ある時点で屈折角が90度になります。この時の入射角を「臨界角」と呼びます。
- 屈折角が90度になると、波は表面を這うようになり、中には入っていきません。
- さらに角度を広げると「全反射」となり、向こう側へは全く伝わらなくなります。
斜角探傷では、この性質をうまく利用しています。例えば、邪魔な縦波を「全反射」させて消し、必要な横波だけを試験体に入れるといった工夫がなされています。

きずの状態とエコー高さの関係
探傷器の画面(Aスコープ)に現れるエコーの高さは、きずの「性格」によって大きく変わります。ここからは実務的な評価の話です。

① きずの面積(大きさ)
基本はシンプルです。きずが大きいほど、跳ね返ってくるエコーは高くなります。
きずが超音波ビームより小さい範囲であれば、面積が2倍になるとエコー高さも概ね2倍になるという比例関係があります。
② きずの傾き
これは鏡に光を当てるのをイメージしてください。
- 垂直が最強:ビームに対してきずが垂直(90度)だと、正面に跳ね返すのでエコーは最大になります。
- 傾くと弱くなる:きずが少しでも傾くと、反射波がそっぽを向いてしまうため、探触子に戻ってくるエコーは急激に低くなります。
③ きずの形状
- 平面(割れなど):鏡のような反射をするため、方向性が鋭く、うまく当たれば強いエコーが出ます。
- 球状(ブローホールなど):波をあらゆる方向に散らします(散乱)。そのため、どこから狙ってもエコーは出ますが、平面きずに比べて高さは低くなりがちです。
端部エコー(たんぶエコー)とは?
最後に、きずの寸法測定で非常に強力な武器となる「端部エコー」について解説します。

通常、斜めのきずに超音波が当たると、反射波は別の方向へ飛んでしまい戻ってきません。しかし、きずの先端(端部)に当たった波だけは特別な挙動を示します。
回折現象を利用する
波が角(かど)に当たると、そこを中心に波紋のように四方八方へ広がる「回折(かいせつ)」という現象が起きます。この広がった波の一部が、来た道を戻って探触子に受信されます。
これが端部エコーです。
これを利用して、きずの「上端」と「下端」からの微弱なエコーをそれぞれ検出し、その差を測ることできずの高さ(深さ方向の寸法)を正確に測定することができます(端部エコー法)。
関連情報とリンク
UTの学習を進める上で、信頼できる情報源を持つことは非常に重要です。最新の規格や講習会情報は、必ず公式機関のアナウンスを確認するようにしましょう。
一般社団法人 日本非破壊検査協会 (JSNDI)
試験の主催元であり、規格の制定を行っている公式サイトです。講習会の日程や資格試験の詳細はここで確認できます。
また、Google Search Console等のWebツールを活用して情報収集されている方は、検索キーワード「UT レベル2 過去問」などで自分の理解度を常にチェックすることをおすすめします。
Google Search Console
最後に
超音波探傷の原理は、一見難解な物理の世界ですが、一つ一つの現象を分解すれば決して理解できないものではありません。
- 三角関数は位置特定のための「定規」。
- スネルの法則は波の進路を決める「交通ルール」。
- 端部エコーはきずの正体を暴く「切り札」。
この記事が、皆さんの資格試験合格や、現場での技術力向上に少しでも役立てば嬉しいです。計算問題にアレルギーを持たず、ぜひ「現象」として楽しんで勉強してみてください!
さい!





